あなたはコップの中に水が半分残っているのを見て、「あと半分しかない」と思う派ですか?
それとも「まだ半分もある」と思う派ですか?
同じ事象でも状況によって感じ方が異なる現象のことを「フレーミング効果」と言います。
これをマーケティングに活用することで、大きな成果が得られる可能性もあります。
今回はフレーミング効果の意味やマーケティングの活用例についてご説明します。
目次
フレーミング効果とは
フレーミング効果の語源はフレーム(枠組み)です。
同じ絵画や写真でも、どんなフレームに入れるかによって見栄えが違ってきます。
このように、何を強調するのか?
何に着目するのか?
によって物事の捉え方が変わる現象のことをフレーミング効果と言います。
プリンストン大学名誉教授でノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏と心理学者のエイモス・トヴェルスキー氏が提唱し、1981年に学術誌『サイエンス』で発表しました。
人間の価値の感じ方には「得をする」と「損をする」という2通りがあり、何を基準にするかによって価値の感じ方が変わってきます。
たとえばテストで90点を取ったとします。
80点を目標にしていた場合は「90点も取れた」と喜ぶことができます。一方で100点を目指していたとするなら、「90点しか取れなかった」と悔しい気持ちになるでしょう。
このように、同じ結果であっても、基準によってその感じ方は大きく異なります。
【豆知識】認知バイアスとは
フレーミング効果は「認知バイアス」の一種です。
認知バイアスとは直感やこれまでの経験による先入観によって非合理的な判断をする心理現象のことを指します。
先ほどのテストの例で考えてみましょう。
これまでテストで60点しか取れなかった人にとって90点は非常に高得点に感じられます。
逆に100点を取った経験がある人にとっては90点が低いと感じられます。
本来なら成績がよかったかどうかは順位や偏差値など総合的に判断すべきものです。
もっといえばその人の良さはテストだけでは決まりません。
点数という結果だけ見てあぐらをかいて勉強を怠ったり、過度に落ち込んでしまったりするのは非合理的な判断と言えます。
認知バイアスは私たちの日常生活で頻繁に発生しています。
ちなみに、よくある認知バイアスとしてはフレーミング効果の他にもシャンパルティエ効果というものがあります。
これは同じ質量の異なる大きさの物体を見たときに、大きいものほど軽く、小さいものほど重く感じられるという現象です。
フレーミング効果の実験例~アジア病問題~
フレーミング効果の提唱者であるダニエル・カーネマン氏とエイモス・トヴェルスキー氏はサイエンス誌の中で「アジア病問題」という実験の結果について発表しました。
両氏は学生に以下の質問をしました。
米国は特殊なアジア病の流行に備えており、この病気によって600人の死者が出ると予想されている。
この病気の対策として次の2つの対策が挙げられているが、どちらを支持するか。
A:200人が助かる対策
B:600人が助かる確率は1/3で、誰も助からない確率は2/3
この結果、Aを選択した学生が72%、Bを選択した学生は28%でした。
「200人が確実に助かる」というポジティブな要素を強調したことによって被験者にフレーミング効果が生じ、全員が助かる可能性があるBよりもAを選択した学生のほうが多くなったのです。
さらに、同じ質問で選択肢を変更した場合の結果も出ています。
C:400人が死ぬ対策
D:誰も死なない確率は1/3で、600人が死ぬ確率は2/3
この場合はCを選択した学生は22%、Dを選択した学生は78%でした。
600人中200人が助かるということは400人が死ぬわけですから、実際にはCの対策はAの対策と同じものです。
しかし、「400人が死ぬ」というネガティブな要素を強調したことで、Cは支持を集められなかったという結果になりました。
フレーミング効果のマーケティング活用例6選!
同じものでも何に着目するかによって捉え方が変わるフレーミング効果。
これをうまくマーケティングに活用することで、より大きな成果が得られる可能性があります。
しかもフレーミング効果は販売戦略から日々の施策、キャッチコピーにいたるまで、さまざまなシーンで応用が可能です。
ここからはフレーミング効果のマーケティング活用例を6つ見ていきましょう。
【case1】推進商品
化粧品やサプリメントなど美容や健康などをサポートする商品は、生活の質を上げる「推進商品」と呼ばれています。
この推進商品は「使うことで顧客が利益を得られる」と感じさせることが大切です。
たとえば「5人のうち4人が効果を実感」と書かれている商品と「20%の人には効果が現れませんでした」と書かれている商品があったとしましょう。
いずれも効果があった人の割合は同じですが、多くの人は前者を選ぶでしょう。
このように、顧客に利益があったことを強調することで、選ばれやすくなります。
【case2】予防商品
予防商品とは病気や犯罪、トラブルなどを防ぐ商品のことです。
具体的には医薬品や防犯グッズ、防災グッズなどが挙げられます。
この場合は逆に顧客の損失についてクローズアップしたほうが効果的です。
たとえばダイエット商品を販売する際に「ダイエットにおすすめ!」と書いてもあまり惹かれません。
肥満を防止したほうがいいのはわかりきっているからです。
「生活習慣病にならないために、今からはじめませんか?」というように、肥満によって引き起こされる生活習慣病という損失を強調することで、購買意欲を掻き立てることができます。
【case3】おとり商品
いわゆる抱き合せ商法とも言えます。
たとえば安価で人気があるAと高価で全く売れないBという商品があったとします。
商品B単体での販売は諦めて、商品A単体と商品AとBのセットを売るという2パターンで販売するよりは、商品Aと商品B、商品ABセットという3パターンで販売したほうが売れ行きは良くなる傾向があります。
売れ筋である商品Aと同列にあえて売れない商品Bをおとりとして紛れ込ませ、さらにお得感を演出できるようABをセットにすることで、商品AもBも購買につなげられます。
【case4】無料
人間は「無料」という言葉に非常に弱いです。
お金を支払わなければ自分が損することはありません。
「2個購入すれば1つ無料」「初回は無料」と宣伝することで、購買に対するハードルを格段に下げることができます。
Webであれば「送料無料」「手数料無料」というのも大きな武器になります。
たとえば商品の代金が5,000円で送料が500円かかる商品があったとします。
購入するために同じ5,500円というコストがかかる商品でも、「5,000円(送料500円)」と記載するよりも、「5,500円(送料無料)」と記載したほうが、購買率が高くなる傾向があります。
【case5】価格ラインマップ
商品単価を上げたい場合は価格ラインナップを工夫するのがおすすめです。
たとえば1,000円の商品と5,000円の商品をラインナップした場合、お買い得感から1,000円のものが選ばれる傾向が強くなります。
そこで、中間の3,000円の商品を加えた場合、「5,000円のものよりは安くて1,000円のものよりは品質が高そう」という判断が生まれ、3,000円の商品が売れやすくなります。
【case6】ポイント還元
高額商品を販売したい場合はポイント還元が効果的です。
たとえば10万円の商品があって「10%割引」と「1万円分のポイント還元」ではどちらが魅力的に映るでしょうか?
顧客にとっては「実質9万円で商品を購入できる」という事実は変わりませんが、1万円分のポイントがもらえて別の買い物ができるという利益が提示されている分、後者のほうに惹かれる人が多いのです。
割引というキャンペーンはありきたりと言えます。
自社商品を目立たせるという意味でも効果的です。
フレーミング効果の理論的説明としてのプロスペクト理論
フレーミング効果が生じる根底にはプロスペクト理論というものがあります。
たとえば「100万円が無条件に手に入るくじ」という選択肢と「1/2に確率であたりが出て200万円がもらえるけど、はずれれば何ももらえないくじ」では、期待値は同じであっても、多くの人は「確実に報酬がもらえる」「損するおそれがない」という理由で前者を選択します。
このように、不確実な状況でどのような意思決定をするかということを理論的に説明したものがプロスペクト理論です。
人間には「利益を得たい」「損失を回避したい」という心理があり、とりわけ「損失を回避したい」という気持ちが大きくなります。
こうした心理が作用し、知らずしらずのうちに非合理的な判断をしてしまうのです。
同じ事象でも捉え方によって違った感じ方をしてしまうフレーミング効果。
これを意図的に起こさせることで、商品やサービスの購買につながる可能性があります。
まずは商品の説明文やキャッチコピーでフレーミング効果を意識してみましょう。
他にもマーケティングに幅広く応用が可能なので、ぜひ活用してみてください。
監修者谷口 翔太リンヤ株式会社 代表取締役
2007年「リンヤ株式会社」を創業。WEBマーケティング歴16年。草創期より一貫してWEBマーケティング の専門家として、多くの企業の収益向上に貢献。これまでに手がけた企業は2902社。豊富な経験を活かし、SEO対策を中心とした効果的なWEB施策により集客最大化を図る。HP制作から運用まで顧客企業をトータルでサポートしている。