消費者の購買行動はインターネットの普及と共に大きく変化しています。この変化に対応するために、消費者行動モデル「AISAS(アイサス)」が生まれました。
このAISASとは何を意味し、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
従来から存在する消費者行動モデルであるAIDA(アイダ)・AIDMA(アイドマ)・AIDCA(アイドカ)との違いや、AISASから生まれた最新の派生モデルであるDual AISAS(デュアルアイサス)、AISCEAS(アイシーズ)、AISEPAM(アイセパム)の紹介を含めて解説します。
目次
AISASモデルとは?使い方と特徴・構成要素を解説
AISASとは、インターネットにおける消費者行動(購買行動)の流れを表した消費者行動モデルのことを表しています。
- Attention(注意)
- Interest(関心)
- Search(検索)
- Action(行動)
- Share(共有)
AISASはこれらの用語の頭文字を取って名付けられており、消費者行動は上記の5ステップの上から順に進んでいくということを意味しています。AISASの提唱者は広告代理店の電通で、2005年6月には同社が商標登録しました。
従来から存在している消費者行動の法則にAIDMAなどがありますが、それらと比べて消費者が能動的に商品やブランドについて知ろうとするという、インターネットにおいて顕著な購買行動が想定されているのが特徴です。
BtoCやBtoBといった商材のターゲットや価格帯等による適合・不適合は存在せず、インターネットを使った集客やマーケティング全般に活用できます。
Attention(認知)=消費者が情報を見て自社の商材やブランドを知る
AISASの1ステップ目であるAttentionは、何らかの方法で消費者に自社の商品やブランドを認知させるフェーズです。売り手の目標は、「自社の商材やブランドを知らない」という消費者の状態に対して、「自社の商材やブランドを知ってもらう」ことにあります。
このAttentionの手段には、オウンドメディアの記事(コンテンツマーケティング)やホームページ、インターネット広告(ディスプレイ広告、リスティング広告、純広告など)、SNSなどのインターネット上の手段はもちろん、テレビ番組/テレビ広告や雑誌記事/広告などといったインターネット以外の手段も含まれます。
Interest(関心)=消費者が興味関心を持つ
AISASの2ステップ目であるInterestは、Attentionで自社の商材やブランドを知った消費者に対して興味を持ってもらうフェーズです。
「知った商品やブランドについて少しでも知ってみたいと思っている」という消費者の状態に対し、売り手は、広告やリンク先のLP、コンテンツなどの自社が発信する情報を通じて訴求を行い、消費者により深く知りたいと思ってもらえるよう興味を持足せることが目標となります。
Search(検索)=商材やブランドを調べる
AISASの3ステップ目であるSearchは、興味関心を持った商品やブランドについて消費者が情報収集を行うフェーズです。
「知った商品やブランドに興味を持ち、競合製品との比較や口コミの閲覧などを行う」という消費者の状態に対し、売り手は「詳細な情報を開示することで商品やブランドへのさらなる理解の促進と信頼関係の構築を行うのが目標となります。
このSearchは、Googleといった検索エンジンでの検索のほか、SNSやブログなどを使っての情報収集などが想定されており、店舗を訪れるといったオフラインでの調査は想定されていません。
自社サイトはもちろん、比較サイトなどの他サイトも広告などを通じて巻き込みを図り、消費者に競合よりも自社商品を選んでもらえるように工夫を凝らしましょう。加えて、競合を含む自社商品のようなアイテムが欲しいという需要そのものの喚起も引き続き実施していきましょう。
Action(行動)=購買・契約する
AISASの4ステップ目であるActionは、消費者が興味を持って調べた商材やブランドに対して購入・契約などの購買行動を行うフェーズです。
この段階で売り手が考えるべきことは、購入や契約という最後の最後の段階での消費者の離脱を防ぐ対策です。具体的には、(何らかの物品であれば)売り切れを防ぐための適切な生産活動のほか、「送料がわからない」「決済方法がわからない」「ページにエラーが出る」といった顧客体験やユーザーインターフェース(UX・UI)の不備の改善が該当します。
特にUXとUIは重要です。商品が売り切れている場合は予約や入荷通知のフォームに誘導するといったユーザーの利便性と行動を意識した導線作りでユーザーの不安やイライラを解消し、買わない理由を徹底的に潰していきましょう。
Share(共有)=SNSでの拡散や口コミなどを行う
AISASの最終ステップであるShareは、購入した商品やブランドに対してSNSでの拡散や口コミの投稿、レビューなどを消費者に行ってもらうフェーズです。派生元のAIDMAといったオフラインでの購買行動から生まれた消費者購買モデルには無い、インターネット独特の行動といえます。
このフェーズは、リピーターの獲得と新規顧客の獲得の両方に影響を及ぼすため、顧客満足度を上げられるかどうかが重要です。
一度付けられた悪評を消すことは難しいため、顧客満足度の上昇に注力するようにしてください。
【事例】AISASの活用方法を具体例で解説
今回は弊社の社員がテレビで見た「サテトム」という調味料を購入した時を例に、具体的な購買行動にAISASがどのように当てはまるのかをご紹介します。
- Attention(認知)=テレビ「博士ちゃん」でサテトムという調味料を知る
- Interest(関心)=卵かけごはんの新しい調味料を模索していたので試したい!と思う
- Search(検索)=ネット検索&カルディや成城石井で探す
- Action(行動)=カルディで見つけたので購入
- Share(共有)=友達や辛い物好きな知り合いに勧める
今回はこのような流れで商品の購入に至りました。
AISASのメリット・デメリット
AISASをうまく活用していくためには、メリットとデメリット(欠点)の両方を知っておきましょう。
AISASは従来から存在するAIDMA、AIDA、AIDCAで想定されていなかったインターネットを利用した消費者行動モデルを説明しています。このようにインターネット上での集客に最適化されているところがメリットです。
一方で、2005年という、インターネットが普及してまだ年月が浅い時期に提唱されたモデルであるため、現在は一般化している比較サイト等を使った商品の比較や、SNS・動画サイトなどの使用は想定されていません。以上の理由から、現在のインターネット環境に適合していない点も多く見受けられます。
なお、このようなデメリットは、AISASを進化させた派生形の消費者行動モデルが生み出されたことで改善されました。
よく聞くAIDMA・AIDA・AIDCAとの違い
ここで、消費者行動モデルとしてよく聞かれるAIDMA・AIDA・AIDCAの違いをみてみましょう。
AIDAは、Attention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求) 、Action(行動)の頭文字をとって名付けられたマーケティング用語です。消費者が商品に接してから購買にいたるまでの行動を表した最初期の消費者行動モデルであり、マス広告による顧客獲得を目的としています。
AIDMAは、AIDAから派生した1920年代に提唱された消費者行動モデルです。テレビなどの新しい広告媒体の登場により、繰り返し広告が閲覧されるようになったことを考慮して、AIDAにMemory(記憶)のMが加えられています。繰り返し広告が閲覧されるのはインターネットにも当てはまりますが、インターネット登場以前に生まれたものであるため、検索行動や情報共有などといったネット特有の行動は考慮されていません。

AIDCAは、AIDAやAIDMAをサンプリングなどのダイレクトマーケティングや人的販売(実演販売など)に最適化させた派生形です。AIDAやAIDMAはマス広告を想定した消費者行動モデルであるのに対して、AIDCAはダイレクトマーケティングを想定した消費者行動モデルという違いがあります。
いずれもインターネット上での集客を想定していない点でAISASとは異なっています。
知っておきたいAISASの3つの派生形
近年の消費者行動の変化に基づいて、AISASには以下のような3つの派生形モデルが生まれています。
- Dual AISAS
- AISCEAS
- AISEPAM
いずれの派生形モデルもインターネット環境の変化への適応や個別の商材への最適化を目指して作られました。インターネット上での集客という実務でAISASを使用するためには、このような派生形の消費者行動モデルも知っておきましょう。
【派生形1】Dual AISAS:情報の飽和とSNSの台頭に対応した強化版

縦軸(従来のAISAS)
- Attention(認知)
- Interest(関心)
- Search(検索)
- Action(行動)
- Share(共有)
横軸(追加された情報拡散の軸)
- Activate(ブランド情報の興味関心層が商品の興味関心層に移行する活性化)
- Interest(広めることへの興味)
- Share(拡散)
- Accept(拡散された情報の受容)
- Spread(受容した情報をさらに拡散)
既存の消費者行動モデルであるAISASをタテ軸に置き、SNSでのコミュニケーションを中心とした新たなAISASをヨコ軸に加えた消費者行動モデルが「Dual AISAS(デュアルアイサス)」です。マーケターの有園雄一氏と電通によって2015年に提唱されました。
AISASでは、消費者の関心(Interest)は商材やブランドなどの購買に関する関心だけと捉えていました。しかし近年では、「購買への関心」だけでなく「コミュニケーションへの関心」があると考えられています。よって、Dual AISASでは、従来の縦のAISASに加えて新たな横軸のAISASが追加されました。この横軸のAISASは以下の用語の頭文字を取って名付けられています。
Dual AISASが登場した理由には、インターネット上の情報が増加することでユーザーのAttention獲得が難しくなってきたことと、SNSの出現と台頭によってネット上のコミュニケーションや情報収集のあり方が変化したことが挙げられます。
AISASでのAttentionからInterestへの流れを細かく分析した結果、その流れにSNSなどのコミュニケーションが重要な役割を果たすことが判明して生まれたのです。
【派生形2】AISCEAS:比較検討を考慮した強化版
- Attention(認知)
- Interest(関心)
- Search(検索)
- Comparison(比較)
- Examination(検討)
- Action(行動)
- Share(共有)
AISCEASとは、AISASをさらに細分化した消費者行動モデルです。AISASと同じようにインターネットを使ったマーケティングや集客全般に活用できます。
AISASと異なるところは、インターネット上の情報で商品やサービスを比較するという行動と、一般的に「比較サイト」と呼ばれる第三者のウェブサイトのことを考慮に入れていることです。AISASと比較して、より慎重な購買行動が想定されているといえます。
【派生形3】AISEPAM:個人情報が多く含まれる商材への特化バージョン

AISEPAM(アイセパム)は、インターネット上での個人情報が多く含まれる(=やり取りが多い)商材のマーケティングに特化したAISASの派生形です。具体的には、不動産や金融、進学、転職といったジャンルの商材が該当します。
AISEPAMの由来は以下の用語の頭文字です。
- Attention(認知)
- Interest(関心)
- Search(検索)
- Examination(検討)
- Permission(許可)
- Action(行動)
- Monopoly(専有)
多くの個人情報のやり取りが含まれるために、情報の「Share(共有)」がなされずに「Monopoly(専有)」が行われることが前提となったモデルとなっているところが特徴です。
また、不動産や金融、進学、転職といったジャンルの商材は、料金が高額だったり、1人では決められなかったりすることが多くあります。そこで親族や家族などの承諾が必要なことも多いために、Permission(許可)が含まれています。
なお、個人情報が多く含まれるという点では、ダイエットや整形、医療関係もこれらに含まれますが、ダイエットや整形に関しては経過や変化などをSNSに投稿する人もいるため、一概に情報の専有がなされるとは言えません。実務で活用する際は、自社の商材を利用する顧客の状況や心理をよく考えて戦略を立てるようにしてください。