消費者が購買を決定するためのプロセスを理解するために、さまざまな消費者行動モデル(マーケティングモデル・購買行動モデル)が生まれています。そのうちの1つである消費者行動モデルにAIDMA(アイドマ)があります。
このAIDMAの使い方やメリット・デメリットにはどんなものがあるのでしょうか。本記事では、AIDMAを実際の消費者の購買行動に当てはめた具体例を含めて解説します。
また、AIDMAの派生形の消費者行動モデルAIDA(アイダ)・AISAS(アイサス)・AIDCA(アイドカ)・AMTUL(アムツール)とAIDMAとの違いもご紹介します。
目次
AIDMAモデルとは?使い方と特徴・構成要素を解説
AIDMA(アイドマ)とは消費者が商品を認知してから購買に至るまでの行動を表した消費者行動モデル(購買モデル・態度変容モデル)のことで、先に提唱されたAIDA(アイダ)の派生形となります。
このAIDMAは以下の単語の頭文字をとって名付けられました(※AIDAの場合、M=Memory(記憶)がありません)。
- Attention(注意)
- Interest(関心)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(購買行動)
この5つの要素から構成されるAIDMAは、さらに認知段階であるAttention、感情段階であるInterest・Desire・Memory、そして行動段階であるActionの3ステップに分けることができます。
- 【認知段階】Attention(注意)
- 【感情段階】Interest(関心)
- 【感情段階】Desire(欲求)
- 【感情段階】Memory(記憶)
- 【行動段階】Action(購買行動)
AIDMAが登場したのは1920年代で、アメリカのサミュエル・ローランド・ホールが著書で提唱しました。日本で最も基本的な消費者行動モデルとして活用されている一方、アメリカは(こちらも非常に有名ですが)派生元であるAIDAの方が広く使われています。
AIDAは広告による集客を想定した消費者行動モデルです。広告による集客という概念は派生元のAIDMAも同じですが、新聞やテレビなどで何度も広告を消費者に見てもらえるようになった20世紀アメリカの社会情勢の変化によって生まれました。
AIDAはインパクトを持つ広告で認知を獲得し、短期間で購買につなげることを想定しています。一方で、AIDMAは何度も広告を見てもらい商品を覚えてから購買に至るという中長期的な購買行動を想定しており、この点で両社は異なっています。
実務で活用する際は、各段階の消費者の心理状態を分析して購入や次のステップへと進んでいく際の障害となっているものを取り除く方法を考えることが大切です。
ここからはAIDMAの各構成要素を深堀するとともに、実際の購買行動に当てはめた具体例を紹介し、理解を深めていきます。
Attention(注意)=消費者が(主に広告で)商品を認知する【認知段階】
AIDMAの第1段階であるAttentionは、自社の商品やサービスを消費者に認知してもらうフェーズです。
Attentionの段階における消費者は、自社の商品やサービスを知らない状態にあります。そこでこの段階における企業側の目標は消費者に商品を知ってもらうことになります。
AIDMAは理論上、各種広告によって認知を獲得することを想定していますが、実務においては、どのようなチャネルで獲得するかは自社が採用している集客方法や市場環境・社会環境に沿って考えるようにしましょう。従って、AIDMA提唱時には存在していなかったSEOやSNSなどによる集客方法を含めてもかまいません。
Attentionでは広告閲覧などによって消費者との接触が複数回されることが前提となっています。ただ、広告閲覧などで商品を認知したとしても、すぐに関心を持って次のInterest段階へ進むとは限りません。
Interest(関心)=広告を見て商品に興味を持つ【感情段階】
AIDMAの第2段階であるInterestは、商品やサービスに対する興味・関心を購買意欲へと昇華させていく段階です。広告によって商品への理解を深めてもらうフェーズとなります。
Interestの段階の消費者は、商品やサービスを知ってはいるものの、興味や購買意欲を持つまでには至っていません。そこでこの段階における企業側の目標は自社の商品やサービスに対して興味を持ってもらうことにあります。
Interestの段階で行いたいのは顧客のメリットを訴求していくことです。自社商品やサービスの強引な売り込みでは嫌われることも多いため、メリットを訴求しながら自社の商品・サービスの良さをユーザーの中に育成していくのです。
なお、AIDMAが提唱された時代にはなかったインターネットが普及した現在は、他社の類似商品・サービスや他の代替手段も含めて比較することが一般的です。例えば、飛行機で移動する際の荷物の運搬手段を探している人が、バックパック(リュックサック)とスーツケースを同時に比較検討するといったことが例に挙げられます。
よって、自社の強みと自社商品・サービスを求める顧客の特徴を理解して訴求を行っていく必要があります。そのためには、自社商品・サービスを使用するシーンやライフスタイルの提案なども含めながら顧客のニーズを喚起していくことも大切です。
Desire(欲求)=商品の購買意欲が発生する【感情段階】
AIDMAの3段階であるDesireは、自社商品・サービスに興味を持っている消費者に対して、その商品やサービスを購入したい・利用したいと思ってもらえるよう働きかけるフェーズです。
Desireにおける消費者の心理は商品・サービスの関心は高まってきていますが、購入意欲を持つまでには至っていない状態です。そこでこの段階における企業側の目標としては、商品・サービスのメリットや競合他社商品・ービスと比較しての優位性など、自社の商品・サービスの魅力を訴求し、使用するシーンやライフスタイルの提案などを行ってニーズを喚起していくことが大切です。
ただし、ユーザーは商品・サービスへの関心は持っていますが、まだ購買には至っていない段階です。そのため、ユーザーが買わない理由を1つ1つ潰していくことが大切です。
Memory(記憶)=覚えているだけの状態になる【感情段階】
AIDMAの第4段階であるMemoryは、ここまでのステップで商品・サービスへの理解を深め購買意欲を持ったものの、時間の経過などで購入意欲を無くしてしまった段階のことを言います。
この段階は、商品を知っているだけの状態に戻ってしまった消費者に対して購買意欲を取り戻してもらったり、購買意欲はあるものの購買するきっかけを失っている消費者の背中を押したりすることで購買につなげていくフェーズです。
Memoryにおける消費者の心理は興味・関心や購買意欲などを無くし購入するか迷っている状態です。そこでこの段階における企業側の目標としては、消費者に再度、購買意欲を持ってもらったり、購買のきっかけを失っている顧客の背中を押したりすることです。
このステップでは、消費者には既に商品・サービス自体は覚えてもらえています。そこで、引き続き広告で接触を続け商品・サービスに対する記憶を持続させたり、魅力的に感じたポイントを思い出してもらったりすることが重要です。
キャンペーンやセールを打ち出すことで、来店や注文のきっかけを作ることも有効となります。
Action(購買行動)=実際に商品を購入・契約する【行動段階】
AIDMAの最終段階であるActionは、顧客に実際に商品を購入してもらうフェーズです。
Actionにおける消費者は、購買意欲を持ってはいるものの購入するタイミングが掴めていない状態です。または、購買意欲が高まり実際に来店やECサイトへのアクセスといった購買行動をとっている場合もあります。
この段階における企業側の目標は、購入のきっかけを掴みかねている消費者の購買行動のきっかけを作ってあげることです。また、来店や注文といった購買行動をとった消費者の離脱(取りこぼし)を防ぐことも重要となります。
具体的な施策としては、購入のきっかけを掴みかねている顧客に対してはキャンペーンやセールなどで来店や注文のきっかけを作ることが考えられます。
また、購買行動をとった顧客の離脱につながる「レジが混雑している」「店員を呼ぼうとしても見つからない」「サイトの使い方がわかりにくい」などといったUXやUIの悪い要素を潰していくことも大切です。
なお、AIDMAの理論には含まれていないものの、事業の存続や拡大には、一度きりの顧客の獲得ではなく、リピーターや新規顧客を継続的に獲得することが重要となります。よって、リピーターの獲得や口コミによる新規顧客獲得など、次の購買行動につなげる事を見据えた施策も同時に打つようにしましょう。
【事例】AIDMAの活用方法を具体例で解説
今回は、弊社の社員が広告で見つけた渋谷のイタリアンレストランに行った経験を例に、具体的な購買行動にAIDMAがどのように当てはまるのかを解説していきます。
- Attention(注意)=通勤に使っている東急田園都市線の車内に流れている動画広告で、渋谷にあるイタリアンレストランの情報を目にする
- Interest(関心)=そのレストランが「パンツェロッティ」という揚げピッツァを提供しているのを知って興味を持つ
- Desire(欲求)=動画広告の美味しそうな料理と調理風景の映像を見て、行ってみたいと考える。
- Memory(記憶)=何度も電車を利用して同じ広告を目にしているうちに、料理名であるパンツェロッティに加えて店名も記憶してさらに行きたくなる。
※(飲みに行く回数がそう多くないことから)この時は店に行きたいという欲求はあるが消費(=来店)のきっかけを持てていない状態だったが、日々、広告を繰り返し見るうちにどんどん購買意欲(=来店の意欲)が高まっていく。 - Action(購買行動)=実際に訪問して食事をする(この時は最初に広告を見てから約1ヶ月半後に行きました)
今回はこのような流れで来店に至りました。短期的な購買を想定しているAIDA(アイダ)と違い、1ヶ月以上といった中長期的な集客にも活用できていることがお判りいただけたと思います。
実用性はある?AIDMAのメリット・デメリット
AIDMAが初めて提唱されたのは1920年代です。既に100年にわたって存在する消費者行動モデルですが、現代においても実用性はあるとされています。
しかし近年では、インターネットの普及による社会の変化や商品・サービスの販売チャネルの多様化が進んでいます。そこで、このような個別のケースに対応するために、後述するAISASといった派生形の消費者行動モデルが新たに登場しています。
AIDMAは汎用性が高い基礎的な消費者行動モデルとして十分に活用できる余地がありますが、基本的な購買行動しか書かれていない分、他の派生形の消費者行動モデルよりも使用者に応用力が必要です。以上の特性から、後述するAISAS等の派生形を使用したほうが効率的である事も多くあるといえます。
実務においては、AIDMA以降に登場した派生形の消費者行動モデルも自社の商品・サービスや顧客の特徴に応じて使い分けるようにしてください。
似ているAIDAやAISAS・AIDCA・AMTULとの違い【派生形の解説】
- AIDA(アイダ)
- AISAS(アイサス)
- AIDCA(アイドカ)
- AMTUL(アムツール)
AIDMAに類似した消費者行動モデルや派生形の消費者モデルとして上記の4つがあります。AIDAはAIDMAの元になった消費者行動モデルですが、残りはAIDAやAIDMAから派生した新たな消費者行動モデルです。
実務においては状況に応じて様々な消費者行動モデルを使い分ける必要があるため、上記の消費者行動モデルも理解しておくことが大切です。
ここからはこれら4つの概要を解説していきます。
【派生元】AIDA:AIDMAの元になったマーケティングモデルの超基本
- Attention:注意
- Interest:興味
- Desire:欲求
- Action:購買行動
AIDMAより前に提唱された、最も初期の消費者行動モデルがAIDA(アイダ)です。AIDMAからM(Memory=記憶)を抜いたAttention(注意)、Interest(関心)、Desire(欲求)、Action(購買行動)の4つの要素から構成されています。
広告を見てからすぐに購買行動をとるような短期間の消費者行動を想定しているのが特徴です。
【派生形1】AISAS:インターネット対応の消費者行動モデル
- Attention:認知
- Interest:関心
- Search:検索
- Action :行動
- Share:共有
Attention(認知)、Interest(関心)、Search(検索)、Action(行動)、Share(共有)の5つから構成されている消費者行動モデルがAISAS(アイサス)です。
AIDAとAIDMAから派生したモデルであり、日本の広告代理店である電通が2015年に提唱しました。インターネットが消費者行動に密接に関わることを織り込んでおり、Search(検索)やShare(共有)といったインターネット特有の要素も含まれているのが特徴です。
近年では、インターネット環境のさらなる変化に伴い、Dual AISAS(デュアルアイサス)やAISCEAS(アイセアス)といったAISASの派生形も生まれています。
【派生形2】AIDCA:ダイレクトマーケティング用の消費者行動モデル
- Attention(注意)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Conviction(確信)
- Action(購買行動)
AIDMAの要素である「M(Memory=記憶)」が「C(Conviction=確信)」に変わった消費者行動モデルがAIDCA(アイドカ)です。
サンプリングや店頭販売など、ダイレクトマーケティングと人的販売に特化した消費者行動モデルといえ、顧客と企業のコミュニケーションによって顧客の購買欲求が「購入しよう!」という確信に変わっていくことを考慮しています。
その他の要素はAIDMAと変わりありませんが、理論上のAttention(認知)のきっかけが広告に限定されておらず、「たまたま店頭で見かけた」というような他のきっかけも含まれてきます。
【派生形3】AMTUL:継続購入を想定した消費者行動モデル
- Awareness(認知)
- Memory(記憶)
- Trial(試用)
- Usage(日常利用)
- Loyality(固定利用)
Awareness(認知)、Memory(記憶)、Trial(試用)、Usage(日常利用)、Loyality(固定利用)の5つから構成されている消費者行動モデルがAMTUL(アムツール)です。
AIDMAやAIDAは1回限りの購入を想定した消費者行動モデルですが、このAMTULは複数回の購入や継続的な利用につなげることを想定しています。
1970年代に提唱された古い消費者行動モデルですが、定期購入するサプリメントや化粧品、各種サブスク(サブスクリプション)など、一般的な商品・サービスを継続的に何度も購入してもらう戦略を立てるときは現在も有用な消費者行動モデルです。