顧客ニーズを把握し、商品を効率的に売るためのしくみであるマーケティング。持つ意味や定義は多岐にわたります。中でも鍵となるのが消費者(顧客)の購買行動プロセスです。購買行動プロセスモデルの1つとなるのが「AIDCA」(アイドカ)です。AIDCAは一般的に、企業が直接顧客にコミュニケーションを取る手法「ダイレクトマーケティング」で活用されます。店頭販売・実演販売などの直接対面手法である人的販売も含まれます。
消費者の購買行動を理解することは、マーケティング戦略においてとても重要になります。購買行動プロセスを分析することで、顧客心理や状況理解につながり、ひいては購買促進にもつながるためです。購買決定プロセスであるAIDCAについて、実際の購買行動とも当てはめ、具体例と共に解説します。また類似のモデルである「AIDA」(アイダ)と「AIDMA」(アイドマ)についても詳しくお伝えします。
目次
【基礎知識】ダイレクトマーケティングの定義とは?
ダイレクトマーケティングとは、企業と顧客が直接的につながり、双方向でコミュニケーションを行う手法です。顧客に直接的に働きかけるダイレクトマーケティングに対して、不特定多数にアプローチする手法を「マスマーケティング」といいます。
ダイレクトマーケティングは双方向であるため、顧客の反応を見ながら的確にニーズを掴むことが可能です。ターゲットを絞り込めるため、費用対効果が高いメリットがあります。個別の顧客へのマーケティングではないため、一方的かつ画一的になりがちなマスマーケティングに比べ、効果の測定が得られ、改善につなげやすいのも利点です。
一方で、ある程度の顧客データを取得するまで時間がかかり、短期的な収益につながりにくいというデメリットがあります。また顧客の属性やニーズに適したアプローチが必要になるため、広告手法や内容、見せ方を変えるなどの工夫が不可欠です。
ではダイレクトマーケティングとは、具体的にどういうものを指すのでしょうか。商品を顧客に届けるための流通経路である「チャネル」によってもさまざまです。
例えばネット上で商品の売買が行われるネット通販(EC)においてもダイレクトマーケティングの手法が用いられています。ECでは運営する企業側、顧客側が直接対面するわけではありません。しかし双方向のコミュニケーションによってリピーター獲得などに貢献しています。
注文をはじめ、問い合わせがあった顧客に直接カタログなど送信するダイレクトメール(DM) もダイレクトマーケティングです。また対面販売などで購入した顧客をターゲットとしてサンプル配布するサンプリング、電話を利用してアプローチをかけるテレマーケティングも該当します。
ダイレクトマーケティングは、InstagramやTwitter、FacebookなどのSNS(ソーシャルメディア)でも活用されています。SNSは顧客の嗜好や行動パターンを把握しやすいため、ダイレクトマーケティングを行いやすい傾向にあるといえます。キャンペーン情報の拡散をはじめ、インフルエンサーを通じたアンバサダーマーケティングなどでも使われます。すでに自社製品を利用していたインフルエンサー(顧客)がアンバサダーとして、他ユーザーの購入を後押しするマーケティング手法です。
固定電話の利用減、住宅セキュリティの強化などによって訪問販売やテレマーケティングは困難となり、縮小傾向にあります。一方、インターネットを使ったダイレクトマーケティングは発展を続けており、今後ますます拡大していくと考えられます。
AIDCAモデルとは?使い方と特徴・構成要素を解説
消費者が商品やサービスに関心を持ったとして、実際に購入に至るまでには過程があります。マーケティングでは、商品やサービスに興味を持ち購買に至るまでの心理ステップを示すモデルが複数あります。その1つがAIDCAです。
AIDCAは、1.Attention(注意)、2.Interest(関心)、3.Desire(欲求)、4.Conviction(確信)5.Action(購買行動)の5つで構成されています。AIDCAの名前はこの頭文字を取って名付けられました。どのような形で誰が広めたかについては明確ではありません。
消費者の購買心理ステップを示す有名なモデルにAIDMA(アイドマ) があります。AIDMAは消費者の購買行動として以前から知られたモデルで、AIDCAとの違いは構成要素の4つめConviction(確信)です。AIDMAではCではなくM(memory=記憶)が心理段階に組み込まれています。またAttention(注意)からInterest(関心)までの経過が短いシーンではAIDA(アイダ)モデルが活用されることもあります。
一方で広告手段は時代と共に移り変わります。新聞、ラジオ、雑誌だけだったかつてと比べるとインターネット広告の普及に合わせた消費者の心理プロセスに着目しなければなりません。AIDMAだけでなくAIDCAをはじめとする新たな考え方が登場するのも自然な流れです。
特にAIDCAはダイレクトマーケティング用の消費者行動モデルとして有効だとされています。ダイレクトマーケティングでは、インターネット広告においても、接客・実演販売においても「Conviction(確信)」が大きな意味を持つためです。ダイレクトマーケティングでは、消費者がその場で「Desire(欲求)」を「Conviction(確信)」に変えるAIDCAの考え方が適していると考えられています。
Attention(注意)=消費者が自社の商品を認知する
AIDCAについて個々のステップごとに詳しく見ていきましょう。
1段階目のAttention(注意)は、自社の商品やサービスを認知してもらうフェーズにあたります。消費者は商品やサービスを知らない状態ですから、企業側が認知してもらうため、手に取ってもらうためのマーケティング施策を行うことが重要です。
商品やサービスが消費者の目を引くよう、インターネットを活用した検索連動型の広告はもちろん、SNSやホームページのコンテンツに注力するのもAttentionには有効です。
まずは消費者の目に触れることがスタート。広告だけに限らず幅広く周知を図るのがAIDCAやAIDMAの考え方です。
Interest(関心)=自社の商品に関心を持つ
商品やサービスを認知してもらった後、より関心を高めてもらうのがAIDCAの2段階目です。
消費者は商品やサービスを知りつつも、高い関心を持ち「購買したい」と思うまでに至っていない状態です。何となく知っている程度の状態も当てはまります。自社の商品サービスに興味を持ってもらえるために、関心を引くためのキャッチコピーを充実させるなどの方法を講じることが必要となります。
注意したいのは、押しつけがましくならないことです。商品やサービスの利用によりどのようなソリューションが得られるのか消費者目線でわかりやすく訴求することが重要です。ライフスタイルにアプローチする形で具体的なメリットを提示するよう心がけましょう。
Desire(欲求)=自社の商品の購買意欲が出る
AIDCAの3段階目では、自社商品・サービスに関心を持つ人、顧客になりそうな見込み客の気持ちを動かすフェーズです。商品やサービスへの高い関心はありながら、購入したいとまでは思わないというのが消費者の状態です。企業側は購買意欲を高めるため、自社商品のコンセプトや魅力を訴えかける必要があります。
競合他社の消費と比較した際の優位性を含め、自社のこだわりを明確にし、 使用するシーンやライフスタイルの提案を行います。より具体的なニーズを喚起させるステップです。自社商品、サービスへの共感につなげるのも大切です。
2段階目の「Interest(関心)」と通じる部分もありますが、「いいな」をより具体的な「ほしい」に変える一押しを提示するのがDesire(欲求)です。
Conviction(確信)=購買意欲が高まり購入を確信する
AIDCAの特徴的なステップである4番目は、消費者の曖昧な「ほしい」を確信に変えるフェーズとなります。見込み客の欲求を「買うべき」「買ったほうが良い」「絶対に欲しい」といった確かな心理に高める段階です。
企業は商品購入に対する迷いや不安を払拭し、欲求を確信に変えるための的確な情報提供、訴求が不可欠となります。
さらなる商品の魅力や他社と比べた優位性、メリットなどを伝えるべく、第三者の評価も含めた数値などを提示しましょう。SNSなどを活用した口コミ、実際に利用した際の満足感をアピールするなど販売担当者の行動・姿勢で消費者の信頼を掴みます。さらに限定の特典や割引などで購入を確信してもらう最後のプッシュを行います。
Action(購買行動)=実際に商品を購入する
AIDCAの5段階目、実際に商品を購入するフェーズにあたります。
消費者は購入を決意し、実際に行動する段階です。この段階において、手続きの煩雑さやわかりにくさがあると、購入を辞める「離脱」につながるおそれがあります。企業側はせっかく購入至った消費者を取りこぼさないよう配慮しなければなりません。商品の在庫切れをはじめ、入力や用紙への記入が面倒だという理由から顧客が購入をやめてしまうケースも少なくないからです。
ECや通販の場合は、購入方法や決済方法をシンプルでわかりやすくするようなユーザー目線に長けたUI/UX設計が欠かせません。UI/UXが原因で消費者にストレスを感じさせていないか、結果離脱などで消費者を取りこぼしていないかを分析しましょう。離脱が多く見られる場合はUI/UXを含めた導線の改善も検討しなくてはなりません。
【事例】AIDCAの活用方法を具体例で解説
今回は、弊社の社員が実際に行った商品の購入やサービスの契約の例を2つご紹介し、AIDCAが実際の購買行動にどのようにつながるのかを解説していきます。
BtoCとBtoBの両方の事例を取り上げています。ぜひ参考にしてください。
【人的販売の事例】試食をきっかけに調味料を購入したケース
弊社の社員がエバラ食品工業株式会社の「タンドリーチキンのたれ」を購入したケース
- Atttention:スーパーで「タンドリーチキンのたれ」を使ったタンドリーチキンの試食(実演販売=人的販売)を見つけて食べる。
- Interest:本格的なタンドリーチキンとは異なるが、美味しかったので興味を持つ
- Desire:夕食のレパートリーを増やしたかったことを思い出し、購入意欲が出る(※ここではまだ迷っている)
- Conviction:調理していた従業員の方の「鶏肉にかけて焼くだけで作れる」という紹介で調理が簡単なことを理解し、便利でおいしい良い商品だと確信を持つ。
- Action:そのままその店舗で購入する。
今回はこのような流れで購買に至りました。
【サンプリングの事例】無料プランを使っていたデザインツールの有料プランを契約したケース
弊社の社員が個人的に無料プランを利用していたデザインツール「Canva」の有料プランを、弊社での仕事用に弊社の法人名義で契約したケースです。
- Atttention:自分のサイトに使用する画像やちょっとした資料などを簡単に作れるツールを探している時にCanvaの存在を知る(ネットの記事で紹介されていました)。
- Interest:無料で使えることを知って興味を持ち、無料プランに登録(弊社での導入前に個人で3年程度利用)
- Desire:弊社の仕事にて、オウンドメディアに使用する簡単な画像を迅速に用意する必要が生じたため、上長にCanvaを紹介し無料プランの導入を相談する。許可が下りたので法人名義のアカウントを作成。
- Conviction:一旦無料プランを使うも、有料プランの機能が業務に必要だと確信したので上長に有料契約を打診。有料プランの必要性(今回は使える素材数の大幅な増加)を伝える。
- Action:上長の許可が下りたので法人名義で契約して実務で使用
今回はこのような流れで契約に至りました。
このツールを導入することで、打ち合わせや発注の手間をかけてデザイナーの方に依頼するまでもない、記事で使用する簡単なサムネイル画像や図解の画像を自力で用意することができるようになり、業務の効率化に繋がりました。
【AIDCAの派生元】AIDAとAIDMAとは?
AIDCAは、AIDA(アイダ)とAIDMA(アイドマ)という2つの消費者行動モデルが大元となっています。AIDAとAIDMAは、AIDCA以外にもAISAS(アイサス)などさまざまな消費者行動モデルの基礎であり古典といってもいいでしょう。最も基本的な消費者行動モデルとしてしっておくべきAIDAとAIDMAについて詳しく解説していきます。
AIDA(アイダ):最初期の消費者行動モデル
- Attention(注意)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Action(購買行動)
AIDAモデルは消費者行動モデルの基礎中の基礎となる消費者行動モデルで、アメリカの広告業界における先駆者といえるセント・エルモ・ルイス氏によって提唱されました。正確な時期は不明ですが、その後1920年代に登場したAIDMAより以前であることは間違いなく、最初期の消費者行動モデルとして知られています。
消費者が商品を認知、購買に至るまでの過程を上記の4段階で構成しており、広告をきっかけに消費者の興味を引く心理的な流れに即し、企業のマーケティング目標も変えることを示しています。AIDAは、広告を見てから購買に至るまでが比較的短いシーンでの購買行動を想定しているのが特徴です。
AIDMA(アイドマ):現代で多用されるAIDAの改良版
- Attention(注意)
- Interest(興味)
- Desire(欲求)
- Memory(記憶)
- Action(購買行動)
AIDAから派生したAIDMAは、AIDA の4ステップに「Memory(記憶)」を加えた消費者行動モデルとなります。AIDAより後、1920年代にアメリカの広告研究家サミュエル・ローランド・ホールが著書で提唱した5つの要素からなる消費行動モデルです。
広告を契機に、商品を知った消費者が購買に至るまでの流れという基本的な想定はAIDAと変わりません。
一方で、AIDAが短期間での購買を想定しているのに対し、AIDMAは中長期的な購買行動を想定しています。
AIDCAに関連する消費者行動モデル【実務で必須】
AIDAからAIDMA、そしてAIDCAに至るまで消費者行動モデルは時代によってさまざまに変化を遂げてきました。集客する媒体や経路、また商材やターゲットによって適したモデルを選ばなくてはなりません。ビジネスの実務に応じ、使い分ける必要があるのです。
特に昨今主流であるインターネットでの購買行動を想定したマーケティングモデルは特殊なマーケティング戦略が求められます。AIDCAやAIDMAと異なる部分も多数あります。
AIDCAを必要とするダイレクトマーケティングに携わる場合はもちろん、状況に応じてAIDCA以外のモデルについても学んでおくことが大切になります。
AISAS(アイサス):インターネット対応の消費者行動モデル
- Attention(認知)
- Interest(関心)
- Search(検索)
- Action (行動)
- Share(共有)
AISAS(アイサス)とは、インターネット普及時代を前提とした消費者行動モデルです。BtoCやBtoBなどビジネスモデルや商材に関わらず、インターネットを用いた集客やマーケティング全般に活用できるのが特徴です。
「検索」「共有」など、インターネットやECならではの消費者行動が含まれるほか、また消費者が「検索」「共有」によって能動的に商品やブランドについて知ろうとするプロセスがAIDMAとは異なっています。
AISASはインターネット上の消費者行動モデルで従来のAIDAやAIDMAのような立ち位置となっており、AISASをベースとしてDual AISAS(デュアルアイサス)やAISEPAM(アイセパム)など、多数の消費者行動モデルが生まれています。
AMTUL(アムツール):継続購入者の獲得を想定した消費者行動モデル
- Awareness(認知)
- Memory(記憶)
- Trial(試用)
- Usage(日常利用)
- Loyality(固定利用)
AMTUL(アムツール)は商品を継続利用する顧客の獲得や、顧客ロイヤリティの考え方を想定・追加した消費者行動モデルとなっています。
AIDCAや派生元のAIDA・AIDMAは1回限りの購入を想定したモデルですが、AMTULは長期的な「ファン」を増やす意味で継続的な利用やロイヤルカスタマーの獲得につなげることを目標としています。
AMTULは、定期購入するサプリメントをはじめ、定額制のサブスクリプションにおいて効果を発揮します。通常の商品を継続的に購入してもらうなど1人の顧客から得られるLTV(ライフタイムバリュー)の最大化にも役立てることが可能なモデルです。
AISEPAM(アイセパム):個人情報が多く含まれる商品の消費者行動モデル(ネット対応)

- Attention(注意)
- Interest(興味)
- Search(検索)
- Examination(検討)
- Permission(許可)
- Action(購買行動)
- Monopoly(専有)
これまでご紹介してきたモデルでは消費者行動を図るのが難しいジャンルが、多数の個人情報を含む、金融商品や不動産、転職、進学や就職など進路決定などの分野・商材です。
これらは商材そのものが個人情報となるため、気軽にタグ付けしてSNSで共有されることがありません。また進学の場合は、家族や親族の許可など個人の行動だけでは読めない部分が大きい商材でもあります。
AISEPAM(アイセパム) は、このように個人情報が多く含まれる場合に特化した消費行動モデルです。インターネット対応の消費者行動モデルAISAS から派生しており、Attention(注目)、Interest(興味)、Action(行動)の4プロセスは共通しています。
一方で、Search(検索) の後にExamination(検討)、Permission(許可)が加わり、さらに最後のAction(行動)にMonopoly(専有)がプラスされたのがAISEPAMです。
検討や許可など、顧客との接点(タッチポイント)のプロセスが取り入れられているほか、専有という最後のステップも特徴的です。専有とは、顧客本人やごく親しい人間だけに知らせ、企業側はアフターケアや紹介などで新たな購買行動につなげます。
一方で、筋トレやダイエット経過報告などをモチベーションとしてSNSでシェアする場合もあります。このような商材では、あえてAISEPAMを活用するメリットは少ないでしょう。
逆にダイレクトマーケティングや直接顧客にコンタクトする人的販売を行うケースでも、人生に与える影響度が高い商材もあります。個人情報の内容や量、自社の商材の特性を見極めて柔軟に取り入れることが大切です。